会社に対して損害賠償が可能なケースについて
作業中に生じた労災事故は、大きく分けて、
①「他の従業員の不注意によって怪我をした場合」と、
②「自分一人で作業中に怪我をした場合」に分かれます。
「他の従業員の不注意によって怪我をした場合」とは、例えば、他の従業員がダンプカーを運転中に付近で作業をしていた被害者の存在に気付かずにダンプカーで被害者を轢いてしまった場合や、解体作業中に他の従業員がうっかり上から物を落として下にいた被害者に当たって怪我をしてしまった場合など、第三者の不注意が直接の原因で負傷をした場合です。
「自分一人で作業中に怪我をした場合」とは、例えば、研磨作業中に誤って手が研磨ホイールに巻き込まれたり、トラックの荷台からパレットを下ろす際に転倒したりする場合などです。
①他の従業員の不注意によって怪我をした場合
他の従業員の不注意によって怪我をした場合、その従業員に対して不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求が可能です。
そして、会社は、従業員が業務中に不注意によって別の従業員(被害者)に怪我をさせた場合、使用者責任(民法715条)に基づいて、被害者に対して賠償責任を負います。
そのため、被害者は怪我をさせた従業員個人と会社のいずれに対しても損害賠償を請求することができ、話し合いの段階で会社が損害賠償責任を認めて損害賠償金を支払うことが比較的多いです。
なお、使用者責任(民法715条)に基づく請求の場合、時効が3年ですのでご注意ください(後遺障害関係の損害は症状固定時から3年で時効です)。
ただし、使用者責任に基づく損害賠償請求だけではなく、次の項目(②自分一人で作業中にけがをした場合)に記載している会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求も可能な場合は、時効は10年です。
②自分一人で作業中に怪我をした場合
自分一人で作業中に怪我をした場合は、労災事故の発生が会社の安全管理体制の不備に起因したものであるとして、会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をすることになります。
しかし、自分一人で作業中に怪我をした場合は、会社としても、「安全配慮義務違反がない」、「そもそも労働者のせいで起きた事故であり、会社に責任はない」などと主張して請求を拒否するケースがあります。
それは、安全配慮義務違反の内容がなく不明確だからです。
では、どのような場合に、会社に対して「安全配慮義務違反」が問えるのでしょうか
安全配慮義務とは?
安全配慮義務とは、従業員の心身の健康と安全を守るために事業者が配慮すべき義務のことで、業種、作業内容、作業環境、被災者の地位や経験、当時の技術水準など様々な要素を総合的に考慮してその内容が決まります。
そのため、具体的な被災状況をお伺いしてからでないと、会社に対して安全配慮義務違反を問えるかどうかは分かりません。
もっとも、当事務所の経験上、「会社の従業員に対する教育不足が原因で被災した」場合や、「会社が管理支配する場所で、会社から提供された機械や道具が原因で被災した」場合には、比較的、安全配慮義務違反を問題にしやすいと言えます。
さらに具体的に言えば、労働者の安全対策として「労働安全衛生法」と「労働安全衛生規則」が定められており、安全衛生管理体制や労働者の危険又は健康障害を防止するための措置をとることなどが規定されていますが、その条文に違反するような状況下で事故が起きたのであれば、安全配慮義務違反を問題にしやすいと言えます。
そのため、例えば、会社の工場で階段を下りている時に滑って転倒したというケースでは、会社に対して安全配慮義務違反を問うことは困難だと思います(但し、業務中の事故であれば、労災は適用されます)。
なお、重大事故で労働基準監督署が災害調査を行い、その結果、法令違反があるとして是正勧告などを会社が受けた場合や、警察・検察が捜査をして会社や担当者が刑事処分を受けた場合は、高い確率で会社に対して安全配慮義務違反を問うことが可能です。
安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の時効は10年です。
会社に対して安全配慮義務違反を問えるかどうかご不明な方は、一度、ご相談ください。
具体的な手続き
会社に対して損害賠償請求が可能かどうか判断するためには、まずは資料を集めていただくことが必要です。
事故状況が分かる写真等の資料があればとても助かりますが、入手が困難な場合は、事故状況を詳細に伺ったり、他の従業員の方からお話を伺ったりするなどして対応いたします。
会社に対して損害賠償請求が可能と判断した場合には、労災の資料を取り寄せていただくことになります。
労災に提出した資料や労災が決定した内容の資料については、当該労働基準監督署を管轄する「労働局」で「保有個人情報公開請求」という制度に基づいてコピーを入手することが可能です。なお、労災の資料の入手には、申請してから一か月ほどかかります。
入手した資料をもとに、事故状況と認定された後遺障害の内容に基づいて検討し、損害額を計算します。
その後、内容証明郵便で会社に通知書を送り、会社と交渉をします。話し合いで解決できない場合には会社に対して訴訟提起をします。